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まとまりにくい「きざみ食」から脱却したい!
問題意識から始まった、食感を残した嚥下食への挑戦

日本の歴史を動かした「桶狭間の戦い」の舞台となった愛知県豊明市。そんな豊明市に位置する「特別養護老人ホーム 豊明苑」は、40年近くにわたって地域の高齢者福祉を支えている施設です。これまでは入所者にきざみ食を提供していましたが、まとまりにくく、口の中でばらけるという点が問題となっていました。その問題点を何とかしようと、施設と委託給食会社が一致団結して、施設が思い描く嚥下食をかたちにしていった取り組みについて、お話を伺いました。

社会福祉法人 福田会
特別養護老人ホーム 豊明苑

管理栄養士
水野みずの 政子まさこ 先生

お話を伺った方

口の中でばらけるきざみ食
嚥下食としてふさわしいか不安を抱くように

当施設は入所で100名、デイサービスで約20名の方に利用いただいており、利用者の半数は認知症を抱えています。誤嚥性肺炎が多かったため、9年ほど前から口腔ケアや多職種による食支援に力を入れるようになりました。専門医の協力の下、飲み込みの状態に合わせて食形態を見直し、食事姿勢の確認も実施して、多職種間で情報共有を行っています。

食支援に取り組む中で課題だったのが、「きざみ食」です。様々な研修会に参加し、口の中でばらけてしまうきざみ食には問題があることを認識していました。またそれまでは、嚥下調整食分類2021のコード3に該当する嚥下食としてきざみ食を提供していたのですが、研修で学ぶうちに、本当に嚥下調整食分類2021と一致する食形態を提供できているか不安を抱くようにもなりました。

特に気になっていたのが、魚のほぐし身です。ミキサーをかけたほぐし身の上からあんをかけたものを提供していたのですが、あんが沈んでしまい、うまくまとまりませんでした。食事介助にあたる介護士からも「あんが足りない」「あんが水っぽくて飲み込んでもらえない」という意見を聞いていました。

食事介助に割ける時間は決まっています。食が進まなければ喫食量が減ってしまい、体重減少につながるので、いかに食べてもらえるものを提供するかが大切です。ばらける食事を提供する施設ではいけない。その気持ちがどんどん強くなり、コード3の嚥下食の見直しに着手することにしたんです。

目指すのは、コード3相当の嚥下食
カタメリンとの出会いで希望を見出す

嚥下食の見直しをするには、嚥下食のノウハウを持っている委託給食会社に変更するのが早いだろうと考え、日本ゼネラルフード(株)に委託しました。しかし、実際に試作してもらったところ、日本ゼネラルフード(株)で提供しているのはコード1jに相当するゼリー状の嚥下食で、私が求めていたコード3相当の嚥下食ではありませんでした。

それまで、コード3相当としてきざみ食を提供していたので、ゼリー食では食感が足りません。それに、コード1j相当の加水量では栄養価が足りず、必要なたんぱく質を摂取できないという問題がありました。筋肉を維持するには、たんぱく質は重要です。たんぱく質が足りないと、やっぱり筋力が低下してしまうんです。これではダメだと肩を落としていた時、ニュートリーの営業の方から「カタメリン」のパンフレットをもらい、紹介されたセミナーに参加しました。

そのセミナーで、カタメリンを使うことで食感を残したまま、まとまりのよい嚥下食を作ることができることを知りました。当施設のコード3は、やっぱり食感が残ってこそだと思っていたので、カタメリンを使えばイメージに近いものができると感じ、委託給食会社の本部の方にカタメリンを使った嚥下食の提供ができないか相談を持ち掛けました。しかし、初めて使うゲル化材であり、きざみ食の対象者が35人と多かったこともあって、現場に配慮し作業の負担が大きいと初めは断られてしまったんです。

そこで、ニュートリーの営業の方に相談したところ、施設で実演してもらえることに。実際に作り方を見て、作る工程はきざみ食と変えず、嚥下食に使う粉をとろみ材からゲル化材に変えるだけという考え方で作れると思いました。そこで、当施設に配属されている委託先の管理栄養士に「粉を変えるだけと考えたらどう?」と直接提案してみたところ、「それならできそう」と言ってもらえたので、一緒に試作を始めてみることになりました。

調理の手間はきざみ食の場合とほとんど同じ
あんの硬さに左右されないので、むしろ楽に

試作をしてみて気になったのは、計量の手間。これまで提供していたきざみ食の調理工程では計量をしていなかったため、カタメリンの導入によって手間が増えるのではという心配がありました。ただ、実際に試してみると、計量の工程は増えるものの調理工程は変えずにすんだので、委託先の管理栄養士も「負担はほとんど変わらない」と感じたようです。また、当初は成形に手間がかかるのではないかという懸念がありましたが、試行錯誤する中で、短時間ですぐに固まるのでわざわざ型を使う必要がないことに気づき、撹拌後すぐにディッシャーで盛り付けることで手間をかけずに作ることができました。

これまでのきざみ食の仕上がりは、あんの物性に左右されていて、食材から出た水分であんが薄まってばらけてしまうということがよくありました。カタメリンで作った嚥下食は、カタメリンが食材と食材をくっつける接着剤のような役割を担い、料理自体が上手くまとまっているため、あんが多少水っぽくても問題ありません。あんの硬さを気にしなくてよくなったことで失敗したらどうしようという不安が減り、すごく楽になりました。

今は、嚥下食の場合も常食とできるだけ同じ性状のあんにしています。あんをかけるとちょっとしたソースのようになって、見た目もすごくいいんです。作っている側としても、自分が出されて嫌だと思うものは提供したくないですよね。料理はやっぱり見た目も大事です。カタメリンで作れば、見た目にもきれいな嚥下食ができると感じています。

委託給食会社と一緒に改良を重ね
まとまりがよく、栄養価にも配慮した
理想の嚥下食を実現

カタメリンを使った嚥下食の物性調整は、利用者さんがいるフロアに出向き、飲み込みの様子を確認し、口の中に残渣がどのくらいあるかをチェックして、それを委託先にフィードバックしながら行いました。現場の介護士からも感想を聞き、「いつもより硬い」などの声があれば厨房に行って実際に食べて改良を進めました。

汁気が多い料理については、加水量が増えることで栄養価が下がってしまわないよう、汁をざるで切ってから調理するなど、委託先の管理栄養士も工夫をしてくれています。

利用者さんの1人に粒感がないと嫌だという方がいるのですが、カタメリンを導入してから粒感や硬さが安定したことでしっかり食べられるようになり、体重が増加して常食を食べられるまでになりました。きざみ食と比べ、量が少なく見えるのもいいですね。ボリュームがあって食べきれないという方も多いので、食べきれる量でしっかりカロリーを摂れるのはメリットだと思います。

委託先の管理栄養士は「一緒にやっていこうと言ってもらえて安心感があった」と言ってくれていますが、同じ理想を目指して一緒に試行錯誤できたからこそ、カタメリンの導入がうまくいったと思います。実際に利用者さんが食事する様子も見てもらったのですが、「この方たちに提供してるんだという実感が湧いた」と話していました。利用者さんにしっかり食べてもらうことが大切なので、その思いを共有できてよかったです。

給食会議や食支援ミールラウンドでも太鼓判を押され、スムーズに定着
「粉を変えるだけ」というシンプルさが吉

カタメリンの導入後、給食会議で実際に作った嚥下食を食べてもらったのですが、まとまりがあって食べやすいと評価が高く、きざみ食からの変更がスムーズに進みました。ミキサー食になりそうと言われた利用者さんも、カタメリンを使ったコード3の嚥下食なら食べられそうだと歯科医師から太鼓判をもらったことも。食形態の見直しを行って、本当によかったです。

当施設では、嚥下食に使う粉をとろみ材からカタメリンに変えるという、シンプルな考え方で取り組みを始めました。これからカタメリンの導入を検討される施設でも、あまり難しく考えず、まずは粉だけ変えてみようというところからスタートするといいかもしれません。嚥下食を作っていくうちに、それぞれに適した作り方が見つかるはずです。

特別養護老人ホームは、看取りをすることが多い施設です。だからこそ、利用者さんが最期まで口から食事が摂れるようにすることを重視しています。高齢者の場合は状態を良くすることは難しいですが、現状を維持したり、低下するスピードをできる限り緩やかにできたらいいですね。利用者さんに最期まで食事を楽しんでもらえるように、これからも口から食べるための食支援を行っていきたいです。

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