最新Topics
古くから港町として栄え、伝統的な建物が残る宮崎県日向市の美々津。市南部に位置する「三股病院」は、地域の中規模病院として、急性期病院と在宅療養とをつなぐ役割を担っています。そのため入院時の食数変動が生じやすく、調理に時間と手間がかかる嚥下食のお粥に関しては、大きな負担となっていました。そこで導入したのが「そく粥つるり」です。今回は再加熱キャビネットを使用したお粥ミキサーゼリーの提供と運用方法、メリットなどについて伺いました。
医療法人杏林会
三股病院
管理栄養士
当院でも厨房の人手不足は大きな課題です。当院の調理スタッフは最大12名ですが、実際は病気やケガなどでマイナス2.5人と人手が足りず、アルバイトの高校生に来てもらうこともあります。さらに、急性期病院から退院され在宅復帰を目指す患者を受け入れている当院の特性上、急な食数変更も頻繁にあります。そうした状況にも対応でき、ミスをしにくく、誰でも調理ができる設備・環境を整えることが急務でした。
そこで最初に導入したのが、再加熱キャビネットです。当院では朝食の全メニューと、昼・夜のご飯で活用しています。事前に盛り付けした食事を再加熱キャビネットにセットしておき、再加熱するだけであたたかい食事が提供できます。これにより早朝暗いうちから作業する必要がなくなりました。
急な食数変更に関して特に困ったのは、嚥下食のお粥です。ソフティアUを使ってべたつきを抑えたお粥ミキサーゼリーを提供しており、ガス釜で炊いたお粥とソフティアUを計量し、ミキサーにかけて作っていました。急な入院でお粥ミキサーゼリーが必要になると、患者によって異なるお粥の提供量にあわせて、お粥を計量しソフティアUの分量をちょこちょこ変更したりという作業が生じ、現場の作業は非常に大変でした。
そんな時、あるチラシを見て「これだ!」とピンときました。熱湯と混ぜるだけでゼリー粥ができる「そく粥つるり」の発売案内。正直、「もうやってられない」と思っていましたから。早速サンプルについて問い合わせると、ニュートリーの営業担当さんがすぐに持ってきてくださり、早速試作してみることになりました。
「そく粥つるり」自体は簡単に作れました。何度か試作している中で、ふと横を見ると再加熱キャビネットが目に入りました。そこで思いついたのです、「混ぜてから温めればできるんじゃない?」と。試した結果、「そく粥つるり」をしっかり水に溶いて再加熱キャビネットへセットする、という手順になりました。再加熱キャビネットは90℃以上になるので、お湯を沸かす必要もありません。温度が均等に上昇するので食材に温度ムラが生じにくく、均質な仕上がりになるのも嬉しい結果でした。
もうひとつ工夫したのは、指示出しの方法です。急なオーダーが入っても、スムーズに患者さんによって異なる分量のお粥に対応できるよう、「そく粥つるり」導入に合わせて、表計算ソフトで配合量を計算できるフォーマットを作りました。お粥の分量(g)を入れれば自動的に水(mL)と「そく粥つるり」(g)の分量が出てくる仕組みです。これによりお粥が120gでも140gでも、フォーマットに入力してプリントアウト。それをスタッフに渡せば、当院が想定するちょうどよい固さの均質なお粥ゼリーができ上がります。これにより厨房内で計算、調整する工程が削減され、スタッフはプリントされた分量を見て、計量・撹拌すればよいだけの状態になり、分量を間違えるリスクもなくなりました。また、お湯に混ぜるだけで作れるので、昼食の場合は90分前までは食数変更に対応できます。
こうした工夫により、1日に40分ほど作業時間が短縮できました。また、ベテランに頼っていた作業から簡単な工程へと移行できたことで、不慣れな新人さんや高校生のアルバイトでもできるようになり、厨房全体の作業が効率化する結果となりました。
気になる味ですが、患者さんからは「しっかりとお米の味がする」という声がありました。その患者さんは経管栄養で、発語がしっかりしている方でした。ある日「1食だけ経口にしたい」という要望が看護師さんからあり、「そく粥つるり」を提供したのです。お米の味がする、味がしっかりしているということは、食事の楽しみにつながります。
そして何より心強いメリットは、「お粥ミキサーゼリーの物性が安定した」という点です。導入直後は看護師さんなどから「ちょっと固いよ」、「もうちょっとやわらかくできない?」といった声もありましたが、現在は、安定した物性のものを提供できることに安堵しています。
人手不足が叫ばれて久しい厨房業界ですが、今後も経験の浅い人でも覚えやすく、より作業しやすい職場環境作りに取り組んでいこうと考えています。また、スチームコンベクションオーブンなどを活用しつつ嚥下食を含めた食事全体の調理工程を改善する。それはこれからも変わりません。そのために私自身も積極的な情報収集と試行錯誤を続けていきたいと思います。