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食が進まない患者さんが経口摂取を続けるには?
患者に寄り添う訪問診療医の取り組みを徹底取材!

2035年には3人に1人が65歳以上と推計されている横浜市港南区には、入院から訪問診療まで一貫して行う「よこはま港南台地域包括ケア病院」があり、地域において在宅医療を必要とする患者さんの訪問診療を積極的に行っています。患者さんが抱える問題に真正面から向き合い続ける田邊医師の想いと、訪問診療における食べられない問題の解決事例についてお話しを伺いました。

医療法人裕徳会
よこはま港南台地域包括ケア病院

医師
田邊たなべ とおる 先生

お話を伺った方

在宅医療を必要とする患者さんの
安定した在宅生活を目指し、多職種で食支援

地域包括ケア病院である当院では、訪問診療で約700名の患者さんを診察しています。そのうち施設に入所している方が約440名、残りの約260名は在宅療養している患者さんです。地域包括ケア病院の立ち上げ当初は、施設を訪問することが多かったのですが、施設をまわるだけで本当に地域包括ケア病院としての役割が担えているのかなという思いは常にあって、在宅療養をしている患者さんを増やしていきたいと考えていました。一番目指したかったのは、在宅での医療を必要としている患者さんを何とかして「医療と繋げる」ということ。そのため、地域のケアプラザから「診療情報や病歴も分からないが、すごく困っている患者さんがいる」と連絡があれば、その日のうちに診に行くなど、どんな患者さんにもスピーディーに対応してきました。そんな取り組みを続けたところ「どこに相談したらいいか分からない患者さんもすぐに診てくれる」ということが少しずつ浸透してきていて、最近では患者さんから直接ご相談をいただくこともあります。まさに目指していた地域包括ケアの形に近づいてきたと感じています。今後も在宅への訪問診療をどんどん増やしていきたいと努力しているところです。

訪問診療の患者さんは、手術や入院などの緊急度は低いものの、ほぼ寝たきりで、必要な介護を受けられていない方が多いです。例えば、何度も救急要請しては家に帰ってを繰り返して「もうどこに相談したら今のこの状況から脱却できるのかが分からない…」という方、通院が難しくなり家族が薬だけもらいに行くという状況が年単位で続き、その間にフレイルや褥瘡が進行している…といった方がいらっしゃいます。そんな時に、地域包括ケア病院である当院が、患者さんが抱える問題の全体像を把握し、積極的にリハビリをやりながら、家に帰っても在宅生活が継続できるように多職種で調整しています。また、訪問診療では、一人一人に合わせて「こうしたら薬が飲めるかな」とか、「デイサービスを調整したら生活が改善するだろう」など、訪問して対話しながら考えています。出している薬を飲んでいないとか家庭環境の乱れは、外来だけでは分かりません。訪問診療で初めて分かることです。定期的な医療やサポートを受けられていない方をどうやって拾い上げられるかが、これから大切になっていくと思います。

訪問診療では、スタスタと自分の足で歩ける患者さんはほとんどおらず、廃用が進んで嚥下機能がかなり低下している方が多いため、食事や栄養面の課題に直面します。嚥下に問題がありゼリーのような食形態が望ましい方が、適切な指導を受けないまま退院されるケースもあり、嚥下食の知識がないため、家で普通の食事を食べて誤嚥性肺炎で入退院を繰り返すことがあります。地域包括ケア病院が増えることで、急性期を脱し治療は終わったものの、まだ自宅でふさわしい形態の食事が提供できない方に対して、適切な評価のもとリハビリを行いながら自宅に帰るための準備ができ、自宅での生活が安定して送れるようになると思います。

コンパクトサイズで高栄養なCP10ゼリー
食が進まない方も「これなら食べる!」

高齢で嚥下機能が低下している方の場合、栄養量を確保することがすごく難しいんです。栄養素の中でも特にたんぱく質はある程度摂って欲しいので、栄養補給ゼリーをおすすめしていますが、今まで知っていた栄養補給ゼリーはボリュームが多く、1本のゼリーを羊羹みたいに切って1日3回に分けて食べてもらっていました。とてもじゃないけど食べ切れない、半分くらいがやっとという方がほとんどでした。

そんなとき、言語聴覚士の粉川先生からブイ・クレス CP10ゼリー ミックスフルーツ(以下、CP10ゼリー)の話を聞き、嚥下しやすい優れた商品であることを知りました。何といっても、あのサイズ感がすごく良いですね。1個80gで12gもたんぱく質が摂れるというのは魅力的です。この小さなゼリー1個で、今まで使っていたものと同程度のたんぱく質が摂れることに、「本当にそんなことが成り立つの!?」と思ったほどです。コンパクトで食べやすいことから患者さんの反応も良く「これだったら食べる」「この量だったら頑張れる」と召し上がる方が多いです。

そのため、経口摂取が難しい方や食が進まず栄養が十分に摂れない方には、CP10ゼリーを使うようにしています。CP10ゼリーを食べるようになってから、食事量が全体的に上がってきた方もいるんです。反対に、食べられるようになってCP10ゼリーの提供をやめたら、あまり食べなくなるケースもありますね。

また、「最期まで口から食べたい」と希望される方にも使っています。最近は「できるだけ自然なかたちで最期を迎えたい」と希望される患者さんが増えてきています。これまでは、点滴で最低限の栄養を補い、全く食べられない状態をただ眺めているのは心苦しいからと、アイスクリームを少し口に含ませてあげるということをしていましたが、CP10ゼリーだとサイズが小さいので、量を召し上がることが難しくなった患者さんでもギリギリまで食べられるんです。点滴を使わなくても、CP10ゼリーと水分補給ゼリーから栄養と水分が補えます。「最期の最期まで口にできている」という実感と「これが食べられなくなったら本当に最期だな」というご家族の受け入れと覚悟の時間を作ることができています。

在宅での生活に大きく影響する
入院中の経口摂取状況

訪問診療で在宅に帰ってからの患者さんを診て痛感しているのは、“入院中に、口から食べられない患者さんを、少しでも口から栄養が摂れるようにすることがいかに大切か”ということ。それが、その後の在宅での生活に大きく関係してきます。入院中ずっと点滴だけで全く口から食べていない状況で家に帰っても絶対に食べられません。患者さんが在宅に戻ってからも元気な状態で過ごすにはやはり食事が全て、食べられていたら何とかなる。そこに尽きるんです。実際に、入院中、何とかCP10ゼリーでギリギリの栄養を保てていると、家に帰っても食べられるようになるという患者さんがたくさんいます。

また、入院中から粉川先生をはじめ言語聴覚士と毎日のようにディスカッションし、在宅復帰を目指す上でどのラインをゴールにするか考えています。毎日コミュニケーションを取っているので、食事の様子や嚥下評価の結果を、その都度ご家族へ報告できるんです。退院時にまとめて説明するのではなく、患者さんが口から食べるためにどんなことをしているのか、そして今どのような状況まで進んでいるかを、日々ご家族に伝えることは自宅に戻る上でとても重要なことだと感じています。

「患者さんとしてではなく人として寄り添う」ことが、私の医療・診察におけるポリシー。例えば、認知症が進んで意思表示が難しくなった方でも、何度も対話を重ねることで、「こんなものが食べたい」「もう点滴はこれ以上したくない」といった気持ちが分かるんです。

患者さんのそばに行く機会が少ない医師は、どうしても「熱が下がった」とか「治療が上手くいった」ということだけに目を向けてしまいがちですが、高齢化社会が進み在宅で療養する患者さんがどんどん増えていく中で、患者さん側の視点に立ち、訴えに耳を傾けられるような医師が増えて欲しいですね。地域包括ケア病院のような病院が、これからの日本の各都道府県において本当に必要になってくると思います。

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