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臨床経験と趣味から発案?!
新たな炭酸とろみの作り方
“反転回旋法”

2022年に「滝宮の念仏踊」がユネスコ無形文化遺産に登録された香川県綾川町。歴史ある踊りが続く綾川町にある「滝宮総合病院」で、炭酸とろみの作り方の革命といえる“反転回旋法”が誕生しました!これまでの一般的な作り方のデメリットを一掃する画期的な方法は、なんと臨床経験と趣味の融合によって生まれたとのこと!
患者さんが飲みたいときに、いつでも炭酸とろみを用意できる“反転回旋法”の誕生秘話やポイントを取材してきました。

香川県厚生農業協同組合連合会
滝宮総合病院 脳神経外科 部長

医師
河内こうち 雅章まさあき 先生

お話を伺った方

「飲みたいときに飲めない」炭酸とろみ
変えたのは臨床経験と趣味を融合した
“泡立てない”方法!

これまでの一般的な炭酸とろみの作り方では、ペットボトルに入った炭酸飲料にとろみ材を入れて激しく振るため、一晩冷蔵庫の中で静置し炭酸を落ち着かせる必要がありました。そのため、急遽介入したい患者さんが現れた場合や、患者さんからの急な希望があった場合に対応できないというデメリットがあったことが開発のきっかけです。

反転回旋法は、本当に思い付きによるものなんです(笑) 「泡が立たないように撹拌させる方法」が何かないか考えていました。炭酸飲料を振った後、吹きこぼれないように静置する必要があるのは、振ったときの衝撃によって液体中の炭酸ガスが気泡となってでてきてしまうためです。そのまま開栓してしまうと、気泡が大きく膨張し液面を押し上げてしまい、容器から吹き出してしまいます。つまり、液体の中に炭酸ガスの気泡が現れなければ、吹き出すことはないだろうという発想なんですよね。

私はクラフトビア・アソシエーション(日本地ビール協会)の審査会の審査員をしており、四国でも数少ないビアジャッジの資格を持っている程ビール好きでして…。そんなビール界隈では、瓶ビールや缶ビールを落としてしまったときに、瓶や缶を長軸方向へねじるようにグルグルっと回して吹きこぼれを少し緩和する方法があるんです。回すことで、液体の中の気泡やボトルの壁面についている気泡が液中に溶解しやすくなるんです。

また、臨床現場における“泡立てずに撹拌する方法”からも着想を得ています。手術で使う接着糊や、脳梗塞の特効薬などは、溶かすときに誤って振ってしまうと泡立ってしまいます。それらを泡立てずに混ぜるために「回して溶かす」ということを、みんな経験的に当たり前のようにやっていたんですよね。研修医は「絶対に泡立てるなよ!」なんて注意されながら、手術室の看護師さんから「こうやって、回して溶かすんだよ」と教えてもらって、泡立てずに混ぜる方法を取得するんです(笑)

このように、ビールの泡立ちを抑える方法と、臨床現場の製剤を回して溶かす方法から“反転回旋法”を考えました。まさか趣味が臨床に活かされるとは!

コツは回す前にあった!
とろみ材を手早く炭酸飲料に溶かす方法

反転回旋法で炭酸飲料にとろみをつける上で一番の肝となるのは、「とろみ材の入れ方」。一か所にドバっと入れてしまうと、そのまま塊になってダマができてしまうので、ペットボトルを斜めにして液面を広くとり、そこにできるだけ均一にとろみ材を入れるのがポイントです。

当院では「ソフティアS」を使っているのですが、ペットボトルの口に入る大きさに「ソフティアS」のパッケージを折り、口を小さくして、振り入れやすいよう工夫しています。

とろみ材を入れたらすぐに、キャップを閉めながら、ペットボトルを回転させ、手早くとろみ材を液中に入れるとダマになりません。

そこをクリアしたら、あとは簡単です。ペットボトルの底面を下にして2~3回回旋し、ひっくり返してさらに回旋します。長軸をあまり動かさず、できるだけ液面がペットボトルの底に当たらないようにしましょう。

なお、ビールの場合は、ペットボトルへの移し替えが必要なので、いかに泡を立てずに注ぎ入れるかも重要となります。ビールはもちろん、ペットボトルもキンキンに冷やしておき、ビールを注ぎ入れる前にペットボトルの中を氷水で洗い流します。よくビールの専門店などでは、グラスリンサーや氷水を入れたタライにグラスをくぐらせて、グラスの汚れを取り除いて泡立ちを抑えており、それと同じ要領です。また、ビールを開けるときは、ゆっくりガスを抜いてから開けると良いでしょう。

ちなみに、炭酸飲料用のペットボトルでないと、圧に耐えられず爆発する可能性があるため注意が必要です。

「炭酸だったら飲めるかも」
シュワシュワの刺激がすぐに用意できる!

「炭酸飲料を飲みたい」という要望はよくあります。実際に学会や論文で反転回旋法を発表する前に、顔なじみの施設の職員さんに「先生、何かいい方法ないですか?」と聞かれて、「誰にも見せないでね!今論文を書いているから」ってこっそり教えたことがあります。サイダーやコーラにとろみをつけて提供したようで、すごく喜ばれたと言っていましたね。

当院でも、嚥下障害の方で、「炭酸とろみなら飲めるかも」という方に試しています。炭酸飲料は嚥下機能に好ましい影響をもたらすという論文も出ていますので、何年か前から「炭酸水でやってみる?」と炭酸のとろみをNSTのラウンドで試していました。

炭酸が刺激になるのもあるとは思いますが、嚥下障害の方は炭酸飲料を飲ませてもらっていないので、シュワシュワの刺激を欲しがっているんだと思います。炭酸を感じて「おお!」っていうのがあるんでしょうね。実際に嚥下障害があり食欲が落ちていても「シュワシュワがあったら飲めるかもしれない」というケースがあります。例えばコーラなら炭酸の刺激だけでなく、爽快感もあり、さらに独特の香りに食欲が刺激されますよね。その視点からも、炭酸のとろみは効果的かなと思いますね。

今は、言語聴覚士さんのマンパワーが少なくて、あまり多く介入できてはいませんが、反転回旋法によって、炭酸とろみを提供したいときにすぐに対応できるようになったので、今後も使っていきたいですね。

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