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嚥下の専門家・福村直毅医師に迫る!とろみ材の選定基準

しらびそ高原や下栗の里などの絶景で有名な長野県飯田市。
自然豊かな飯田市にある「健和会病院」の福村直毅医師の元には、全国から飲み込みに悩みを持つ患者さんが訪れます。福村医師は、横向きの姿勢で食べる「完全側臥位法(かんぜんそくがいほう)」を発見した摂食嚥下領域の専門家です。健和会病院では、福村医師による独自のとろみ材の選定基準を設けているとのこと。どのようにとろみ材を選定しているのか、選定基準について取材してきました。

社会医療法人 健和会
健和会病院 
総合リハビリテーションセンター長

医師
福村ふくむら 直毅なおき 先生

お話を伺った方

とろみ材の選定基準は
コスト・物性・食味・
作業効率の4つ

今まで使っていたとろみ材がリニューアルし、味の変化により食べない・飲まない方が増え、継続使用が難しくなったため、とろみ材の再選定を行いました。当院におけるとろみ材選定の評価項目は4つ、①コスト②物性③食味④作業効率の順番で絞り込んでいます。それぞれの評価項目に意味があることはもちろん、“どの順番で検討するか”も重要です。

①コスト

とろみ材の評価項目として、まずはコストが優先されます。とろみ材は、病院や施設で購入しており、コストが高いと継続使用が難しくなります。そのため、サービスを提供し続けられるか、という継続性を第一に考え、コストを比較します。1回あたりの使用量からコスト換算し、数あるとろみ材の中から、何種類か候補を絞りました。

②物性

次の評価項目が物性です。病院や施設で“嚥下調整食”として提供するわけですから、飲み込みに優しい物性であることは必須項目と言えるでしょう。経済的な問題がなければ、物性の方が優先されるべきポイントですが、今の医療・福祉を取り巻く環境に配慮して、コストの方をわずかに優先させました。

当院では、同等のとろみで物性を評価するために、機器メーカーと共同開発した「とろみ度計」を使っています。臨床で長年嚥下に関わる中で、“スプーンでかき混ぜた時の抵抗値”によって、とろみの付き具合を判断することが非常に多いことがわかり、「それを数値化できないか」というところから開発に至りました。「とろみ度計」では、動的粘弾性に近いものを計測できます。実は、粘度というのは液体の評価に使うものであり、とろみ液のような溶液の場合には動的粘弾性で評価するのが一般的です。その動的粘弾性に近いものをとろみ度とし、それを一定にしたものを対象として、さらに当院で求める物性かどうかを評価しています。

当院でとろみに対して求めている物性は“ゆっくり流れる”ということ。それには、適度な付着性と凝集性が必要です。そこは、医師、摂食嚥下認定看護師、言語聴覚士らがスプーンですくったりつぶしたりして評価しています。

③食味

食味の評価として、できるだけ多くの人数で官能テストを行います。今回の選定も、採用していたとろみ材の食味が変わってしまったことで、食べない、飲まない人が非常に増えてしまったことがきっかけです。同時にさまざまな部署から困惑の声が挙がったほか、他施設からも「どうしたらいいでしょう」と相談が舞い込んできました。このように食味の変化によって食べない・飲まないといった事態が起こると継続使用が難しくなるため、食味は非常に重要な要素となります。

官能テストは、一番簡単にできるので、施設によっては初めに行うこともあるでしょうが、品目をある程度絞った方が比較しやすいと思います。また、この地域の人たちの味の好みの標準値を見つけるために、さまざまな部門に声をかけ96名のスタッフに参加してもらい評価しました。

④作業効率

作業効率については、実際にとろみ材を使う看護科の方たちに様々な液体にとろみをつけてもらい、溶けやすさ、牛乳や栄養剤にとろみがつきやすいかなどを評価しました。病院や施設で採用している栄養剤すべてにとろみがつくことが理想ですが、そう簡単ではなく、種類によってとろみがつきにくいこともあります。そのため、牛乳を基準にすると均質に評価できます。病院や施設では牛乳の提供が多いので、牛乳へのとろみが安定するのは大切なポイントですね。

今回の選定によって、コストで11品目、物性で5品目、食味で2品目が残り、最後に作業効率を評価し、「より使いやすい」という報告をうけて、ニュートリーのとろみ材「トロメリンV」を採用しました。選んだ決め手は、飲んだ時ののど越しの良さ、溶けやすさ、多くの栄養剤にとろみがついたこと、そして牛乳へのとろみの安定性です。看護師が実際に飲んだときも「これ良いよね」「患者さんたちに提供したいね」という声が挙がっていました。

“とろみ材に求めるもの”を
明確にして
患者さんに合わせた
とろみ材選びを

とろみ材に求める性質は、病院・施設によって変化します。患者さんの属性を見て、とろみ材に求める性質を明確にして選定すると良いでしょう。そのような知識を持たず、いきなり官能テストを行ってしまうと、「これはベタつくからやめよう」といった判断になる恐れがあります。必要な付着性を否定するような評価になりかねないので、“なぜベタつかせないといけないのか”ということを認知したうえでの選定をお勧めします。

さらに、私としては、極力県内を同一のとろみ材でまとめたいと考えています。同一のとろみ材にすることで、データが集約され、活用しやすく、信憑性が高まります。「このとろみ材を使ったとろみならこの濃さで大丈夫」と明確に言えるようになります。また、同じとろみ材で指導できると正しく使ってもらえるということもあります。

とろみについてどんどん学習してもらい、上手に使ってもらうことで、多くの人が経口摂取を続けられるようになって欲しいと思います。

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