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嚥下機能と食事形態、口腔ケアまで…シームレスな情報連携を実現!
医療・介護と患者を結ぶ『嚥下手帳』

大阪府大東市と奈良県生駒市の境にある生駒山地に、回復期リハビリテーション病棟168床、療養病棟・障害者病棟332床を有するわかくさ竜間リハビリテーション病院があります。法人全体で急性期から回復期、療養期、介護や訪問リハビリなどを広くカバーする施設運営をしています。しかし、食事形態や名称などに施設間で差異があり、それが転院や退院などの際に問題となるケースがありました。そこで『嚥下手帳』を制作することで差異の統一・解消を目指したそうです。現在、その『嚥下手帳』により活路が見え始めたと言います。嚥下手帳とはどんなものなのか、制作に携わったお二人に伺いました。

社会医療法人若弘会
わかくさ竜間リハビリテーション病院
https://www.wakakoukai.or.jp/rihabili/

言語聴覚士
藤平ふじひら 健太郎けんたろう 先生(写真右)
管理栄養士
改發かいはつ 明子あきこ 先生(写真左)

お話を伺った方

同じ法人内でもバラバラだった
とろみの粘度や食事形態
それらを統一し、スムーズな連携を図りたい

当院は社会医療法人若弘会わかこうかいという法人の一施設です。同じ法人内には急性期病院や介護老人保健施設、在宅医療を担うクリニックや訪問看護ステーションなどがあり、病気を発症してからご自宅で生活されるまでを一貫してカバーできる体制をとっています。その中で当院は回復期病院として急性期と在宅とをつなぐ役割があり、入院や転院、退院の際に他の施設などとのやりとりが頻繁にあります。そこで大きな課題だったのが、嚥下食の形態や名称が統一されていないことでした。

申し送りをしても、当院で薄めのとろみを提供していた患者さんに、退院・転院後の施設では異なる粘度のとろみが提供されていたり、嚥下機能と食事形態が合致していなかったりすることが、以前から散見されていました。時には再評価が必要となることもあり、看過できない問題となっていたのです。

そこで当法人の各施設に呼びかけ、原因を調べてみると、対応方法や認識にずれが生じていることがわかりました。特に、とろみのつけ方や水分ととろみ材の分量、食事の際の姿勢、患者さんへの指導用資料に違いがありました。指導用の資料は、スタッフが個人で作成していたため、イラストを入れるなど理解してもらうための工夫を含め、制作に時間と手間がかかっていました。これではどれだけ丁寧な申し送りをしても、差異が出るのは当たり前だと感じました。そこで、スムーズな連携を図れるよう、嚥下に関する共通言語・共有認識を作ること。患者さんの状態や介入内容を多職種や他施設へつなげていくこと。再評価や度重なる説明の手間などの業務負担を減らすこと、などが解決すべき課題となりました。

その解決策として生まれたのが、現在試運用中の『嚥下手帳』です。

施設間の認識をすり合わせ作成した嚥下手帳
共有すべき情報を網羅した第一弾を試験運用中

嚥下手帳制作プロジェクトは、2024年5月から始まりました。当法人の各施設から多職種のメンバーを募り、各職種の視点で必要な情報を出しあって現状を認識するところから作業を始めました。その情報量は膨大で、まずは急性期から在宅までのあらゆる場面に合わせた説明・指導ができるよう情報を取捨選択。とろみのレベルやとろみ材の分量、使用する用語もきちんと統一することを目標としました。そうした精査と検証、検討を重ねた結果、完成したのが現在試運用中の『嚥下手帳』です。

運用開始は2025年1月で、収録した情報は多岐にわたります。患者さんの情報、口腔ケアのやり方、嚥下状態に合わせた姿勢の取り方、とろみの必要性と作り方、口腔ストレッチやパタカラ体操など、嚥下に関連するさまざまな情報を用意しました。その中から、各職種が評価した内容に合わせて患者さんに必要なページをA4サイズに印刷して1冊にまとめます。患者さんによって内容が変わるオリジナルの手帳です。入院中に口腔ケアの指導をする際や退院時の指導に活用しています。共通の資料を使用することで、経験年数に関わらず同じ内容で指導できるようになりました。

特に留意したのは、患者さんの詳細情報を間違いなく次の施設へとつなげられるツールにすることです。患者さんの身長・体重や介護度等の基本情報、義歯や衛生状態といった口腔内の情報、嚥下機能と問題点、食事内容、服薬について、嚥下トレーニングについてなど、必要な情報を網羅的に盛り込んでいます。

なかでも特記欄は一番大きなスペースを取っており、各職種が伝えたいこと、伝えるべきことを書き込めるようにしています。というのも、情報提供書や看護サマリーには「硬いものはここまでは食べられたけど、これ以上はできなかった」というような細かい情報やその患者さん特有のポイントが記載できないため、この特記欄を活用し転院先に共有したいと考えたからです。これにより、転院先での再評価・再確認を減らすことができます。また、退院して在宅介護になる場合には、嚥下食の作り方のポイントやアレンジの方法、とろみの付け方などを記入してご家族などへお渡しできます。

退院後に嚥下食を実践する
患者さんやご家族のために
参考になる情報が得られるリンク集を設置

工夫のひとつとして、「食事作りの参考となるWEBページを掲載した」という点が挙げられます。

毎日朝昼晩と摂取する食事は、入院中であれば管理栄養士が嚥下の状態に合わせて、おいしく、飽きのこない食事を用意します。ところが、退院後は患者さんやご家族が実践していかなければなりません。これはかなり大変なことです。そこで自宅でもすぐに調べられるよう、『enge.jpエンゲジェーピー』をはじめとしたインターネットサイトのリンク集を用意しました。

もともと当院ではソフティアシリーズを使用しており、嚥下食レシピなどに関しても『enge.jp』を参考にしていました。患者さんや介護者さんへ説明する際も、その動画やレシピを活用していたので、「これなら利用しやすいのでは」と思いました。嚥下手帳を使って作り方を説明しますが、それは一例にすぎませんし、自宅で実際に作ってみたら「どうすればいいんだっけ?」と困ってしまったという時にも参考になるはずです。

患者さんは高齢の方も多く、機器の操作に疎い印象があるかもしれませんが、現在ではスマートフォンを使っている方もたくさんいらっしゃいます。加えて、調理をするご家族やヘルパーさんなどは、インターネットに慣れ親しんでいる方が多いため、活用面での問題は少ないと考えています。たとえば訪問リハビリの方とか介護士さん、ケアマネージャーさんがタブレットなどで二次元コードを読み込んで一緒に見る、という具合に活用している方も増えています。ぜひ積極的に活用していただき、1日の献立や補食、アレンジについて参考にしてほしいと思います。

2026年度の本格運用に向けて課題の解決へ
法人外の施設とも連携が図れるような
“嚥下の共通言語”を目指す

『嚥下手帳』は、2026年からの正式運用に向けてさらに改良を重ねています。

まずはサイズですが、現在のA4はとても見やすく、情報量も豊富に掲載できるのですが、持ち運びづらく使い勝手は良いとは言えません。そこで理想としては、A5サイズの冊子へと縮小し、持ち歩けるようにして、どの患者さんにもお渡しできるようにしたいと考えています。

情報が多すぎるという課題もあります。今は専門的な情報が網羅されすぎているためとても細かく、評価する側の負担が大きいのです。これをさらに取捨選択して簡易版を制作できれば、項目数も負担もぐっと減り、より見やすくなると思います。もともとが「嚥下食の内容と名称、患者さんの能力と食形態の不一致」を課題として始めたプロジェクトなので、それらを解決できるような“嚥下の共通言語化”を、今後も吟味し検証を重ねて、ブラッシュアップしていかなければなりません。

嚥下手帳を使用している患者さんや介護者の方々からの、ご意見・ご要望も聞いてみたいと考えています。これまでも「わかりやすい」といった感想はいただいているのですが、もう少し具体的に役に立ったページや活用度合い、使い勝手などをリサーチしながら、情報の取捨選択や見せ方の工夫へと反映させていきたいです。

現在の『嚥下手帳』を広報誌で紹介して以降、法人内外を問わず、いろいろな施設から問い合わせが来ています。そのなかには「冊子の中身を全部見せてほしい」、「うちでも使いたい」といったものもあり、今年度末にプロジェクトが区切りを迎えるまでには、ぜひとも完成させたい、というのが最終目標です。完成すればもっと広く利用してもらえるようになるでしょう。きっと法人内だけでなく、地域での連携も容易になり、嚥下に関する共通ツール・共通言語になっていくのかもしれません。そういった希望と目標をもって、嚥下手帳の完成に向けて取り組んでいます。

「嚥下手帳」を制作・運用することにより、若弘会グループ内の病院・リハビリ・介護・訪問看護施設間で、患者様の嚥下情報を円滑に共有・連携しています。

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