最新Topics
岩手県との県境に位置する宮城県登米市は、仙台牛の一大産地で、米どころとしても知られています。その登米市が運営する登米市民病院は病床数198床の中核病院、かつ災害拠点病院です。そんな登米市民病院の厨房では、人手不足や日常的な食数変更などの課題を抱えており、調理員の負荷軽減が急務でした。今回は、「とろみ自動調理サーバー」を導入し、とろみづけだけでなくゼリー食作りにも応用することで、大幅に作業効率が向上したと聞き、お話を伺いました。
登米市立登米市民病院
栄養管理室 管理栄養士長
それまで当院が提供していたとろみ茶やお茶ゼリーは、直径が1m以上あるような大きな回転釜にお茶のパックを入れ、色が出るまでしっかりと煮出していました。その後鍋に移して、とろみをつける場合はとろみ材を、ゼリーを作る場合は、ゲル化材を入れて撹拌し、カップに取り分けて提供するという流れでした。しかし回転釜は大きく、煮出すお茶の量も多く、結構な力仕事。男性の調理師さんばかりが担当することになってしまい、どうしてもシフトが固定化されてしまいがちでした。しかも、3台あった回転釜はいずれも耐用年数を超え、故障しても部品がない状態になっていました。
そのタイミングで偶然、とろみ自動調理サーバーを扱うアペックスさんより紹介いただき、初めて「とろみ自動調理サーバー」なるものを知ったのです。お話を伺ううちに「スタッフの人数も減っているし、調理時間の短縮になるのではないか」、「調理設備や作業工程をスリム化できるのではないか」と考え、検討をはじめました。
ほかのメーカーのサーバーとも比較検討しましたが、導入の決め手になったのは「ソフティアG」が使えたことです。当院ではずっと「ソフティアS」と「ソフティアG」を使っており、費用や使い勝手の面からそれを継続使用したいという強い要望があったためです。
まずは試用期間をいただき、とろみ調整している中で、ふと思いついたのが「これ、とろみ材をゲル化材にしたらお茶ゼリーも作れるんじゃない?」ということです。お茶が出る、とろみ材が入る、撹拌するという工程だったので、出てくる粉を変えるだけで作れるのではないか、という単純な思いつきでした。これまでのお茶ゼリーや味噌汁ゼリーは、手作業で計量して作っていたので、担当者によって固さが違うケースがあり、介護スタッフや言語聴覚士さんから「今日はゆるいね」「日によって固さが違うね」といった声があがることも。また、ゲル化材の「ソフティアG」ととろみ材の「ソフティアS」を間違え、お茶とろみを作るはずがお茶ゼリーともお茶とろみとも言えないものができあがった、ということもありました。とろみ材もゲル化材も同じ白い粉で、並べて置いていたために取り違えてしまったんですね。しかし、機械でゼリーもとろみも調理できれば、そうしたミスがなくなるのではないかと考えました。
試してみると、お茶ゼリーは数回の試作でちょうどよい仕上がりになりましたが、とろみを調整するのには意外と苦労しました。というのも、同じ「中間のとろみ」でも粘度の幅があり、看護師や言語聴覚士、私たち管理栄養士などの間で求める粘度にズレがあったことが理由でした。そこで粘度計を使って粘度を数値化し、客観的に確認することで、院内スタッフの間で粘度の認識をすり合わせることができました。
2025年に入って本格導入へと踏みきり、現在も使用中です。とろみ自動調理サーバーには、ボタンが8つ付いていますが、現在は5つを使用し、ほうじ茶のとろみとゼリー、味噌汁のとろみとゼリーを作っています。サーバー内にはタンクが3つあるので、粉茶とソフティアS(とろみ材)、ソフティアG(ゲル化材)を入れて、とろみもゼリーもできるようにしています。
お茶はとろみもゼリーも、とろみ自動調理サーバーだけで調理が完結します。味噌汁のとろみとゼリーに関しては、鍋で作った味噌汁をピッチャーに移してからサーバーにセットし、ボタンを押して作成しています。味噌汁とろみのボタンを押すと「ソフティアS」、味噌汁ゼリーのボタンを押すと「ソフティアG」だけが投入され、自動撹拌してくれます。とろみはそのまま盛り付け、ゼリーは、40℃以下に冷却しゲル化したら完成です。
サーバーをデモ設置した当初は特定の人以外誰も使ってくれませんでした。使ってくれたのは機械好きなベテラン調理師さんだけで、ほかの方は、従来のやり方が慣れていて安心だから、と敬遠していたのです。実際に使ってみた調理師さんが率先して「こうすると楽だよ」「ここを押すだけ」「やってみなよ」と、少しずつ使い方を広めてくれたおかげで、今では3人の調理師さんだけでなく、パートさんでもボタン一つでとろみ茶やお茶ゼリーを作れるようになりました。
それにより作業時間を大幅に短縮できました。1回30分ほどかかっていた作業が、現在ではたった2分です。1日2回作業をするので、約60分が浮いたわけです。その時間は各自の担当業務を進められるので、非常に作業効率がよくなりました。
作業工程の中の計量や撹拌が機械化されたことで、ゼリーもとろみも質的なばらつきがなくなり、常に求める物性のものが提供できるようになりました。さらに、とろみ材とゲル化材を取り間違えるといった人為的なミスの心配もなくなりました。人手不足の厨房において非常に嬉しいことです。
予想外のメリットとしては、味噌汁ゼリーを作る際、手作業で作っていた時よりも「ソフティアG」の使用量が少なくすんでいることです。メーカーさんによれば「高速撹拌が有効に働いているのかも」とのことでした。1回2Lを作る際に「ソフティアG」16gを使っていたところ、14gで求める物性のゼリーにできました。ほんの2gの違いですが、長い目で見ればコスト面でも助かる結果です。
今回のとろみ自動調理サーバーの導入と「ソフティアG」の組み合わせは、ちょっとした思いつきからできたものですが、予想以上の効率化を達成できました。同時に、「この人でなければできない」から「誰でもできる」に切り替えることが、調理スタッフの配置や作業のしやすさ、そして負担の軽減へと直結するものだと再認識できました。
当院だけでなく厨房業務では、今後も今以上に人員が集まりにくくなっていくと思います。それが機械を導入することでカバーでき、患者さんに安全でおいしい食事を提供できるのであれば、当院としては積極的に活用していきたいと思っています。
また、近い目標としては、炭酸飲料のとろみに挑戦したいと考えています。ここ登米市は、炭酸飲料が好きな方も多い土地です。時には慣れ親しんだ味やシュワシュワ感を楽しんで頂き、水分摂取量が増えたらいいなと思っています。