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明石市と加古川市に隣接するベッドタウン・稲美町。その北西端にある稲美しんわ病院は精神治療病棟、認知症専門病棟、療養病棟など計298床を有する精神科病院です。地域で高齢化が進むなか、2025年4月には介護医療院を新たに併設し、看取りまで担う切れ目のない医療・介護サービスを提供しています。とろみ飲料を必要とする方の増加に伴い、とろみ自動調理サーバーの導入を検討。そこでおこなわれた勉強会で得られた大きな気づきがケアの質を見つめ直すきっかけとなったといいます。その詳細を事務長の石上氏に伺いました。
医療法人社団友愛会
稲美しんわ病院
事務長
看護師長
看護助手

「とろみ自動調理サーバーを導入してはどうか」という話は3年ほど前、先代事務長の頃から検討されていましたが、当時はまだとろみ飲料の利用者が少なく、導入に至ることはありませんでした。しかし、兵庫県精神科病院協会の事務長会でも「とろみ自動調理サーバーを導入している」、「業務負担の軽減に役立った」といった話題がたびたびあがっており、以前から関心を持っていました。
当院が本格導入へ至ったのは、2025年5月です。最大の理由は、看護助手の人員不足による業務負担が看過できないほど増大したことでした。入院患者の高齢化に伴いとろみ飲料を必要とする方が増加したことに加え、2025年4月に介護医療院が開設されたことで、とろみ飲料利用者数は100名前後から150名前後まで増えました。
当時、とろみ飲料は主に看護助手が1日に5~6回、手作業で作成。中とろみ・強とろみなどの段階を設けた上で、さらに患者さんごとに細かく粘度調整をしていました。粘度を記したラベルをコップに貼り付け、1杯1杯作成していたのです。当然時間がかかりました。配膳室にこもって作業する時間が長く、それが終わらないとほかの業務ができない状態です。さすがに限界だと考え、とろみ自動調理サーバーの導入へと舵を切ったのです。
導入の過程で大きな転機となったのが、デモ期間中に行われた院内勉強会でした。アペックスさんとニュートリーさんに来院いただき、サーバーで作成したとろみ飲料と職員が従来通り手作業で作成したとろみ飲料の粘度測定や飲み比べをおこないました。これが私たちにとっては非常に衝撃的でした。
実際に簡易粘度計で数値を測り、嚥下調整食分類2021(とろみ)の基準と照らし合わせてみると、私たち職員が「中とろみ」と認識していたものが想定以上に濃く、基準から外れるケースがあることがわかりました。試飲をしてみると、白濁して粘度が高く、飲むと口の中にまとわりついて膜が張るような感覚でした。かえって喉の渇きを感じるほどです。例えるなら「やわらかいわらび餅」でしょう。
一方、サーバーのとろみ飲料は透明で口当たりがなめらか、スッと喉を通過し、おいしく感じました。水分としての感覚も残っており、職員からは「これなら飲める」、「目から鱗だ」などと声が上がりました。以前からとろみ付けはしていたものの、試飲したことがなかったことから、職員みんなが驚いたようです。最初にサーバーの飲料を見たときは、ゆるいのでは?と不安でしたが、粘度測定と基準に基づく解説、そして実際の試飲を通じて適切な粘度を体感することができました。やはり体験に勝るものはありません。もし導入を検討されている方がいるなら、絶対に試飲した方が良いと思います。
この勉強会は、サーバー導入の検討材料としてだけでなく、これまでのケアの質を見直す機会にもなりました。私たちにとって大きな意義のある会でした。
とろみ自動調理サーバーは2台導入し、介護医療院を合わせて現在約150名分のとろみ飲料を賄っています。設置場所はそれぞれ異なる病棟の配膳室で、設置病棟以外は取りに来てもらう形です。
導入後に大きく変わったのは、まずとろみ飲料の品質です。ボタン1つで嚥下調整食分類2021に基づいた粘度を安定して再現できるようになり、個別調整は不要になりました。濃さの判断を経験や勘に頼らず、根拠に基づいて提供できている安心感があります。とろみ飲料を初めて作る人に教えるのも簡単ですから、経験の浅い人や外国籍の職員でも同じ品質のものが作成できます。
また、飲みやすくなったことから、患者さんからの拒否も減り、必要な飲水量を確保しやすくなりました。特に発熱時に誤嚥防止として一時的にとろみ飲料を提供する場合は、普段飲んでいないことから拒否されやすい状況でした。そのため、看護師は何度も対応せねばならず、それでも無理な時は点滴へ切り替えることもありました。しかし、導入後はそうしたケースがなくなり、今は、むせを心配することなく提供できること、きちんと飲んでくれることへの安心感があります。使用する点滴の量も減りました。
もちろん、業務負担も大きく軽減されました。ピッチャーをセットしてボタンを押すだけで、2リットルのとろみ飲料がたった2分20秒で完成します。これまで1回あたり10~15分かけて、毎日5~6回とろみ付け作業をおこなっていたため、トータルで1時間ほど作業時間を短縮できました。ボタンを押した後は洗い物やおやつの準備、食事の準備など別の作業をすすめることができ、配膳室にこもりきりになる時間も減りました。サーバーが設置されていない病棟から取りに来る運用も大きな負担にはなっておらず、むしろ「作ってくれて助かる」という声があがっています。
コスト面に関しては、サーバーやとろみ材の費用をトータルで考えると、それほど大きな効果は得られておりませんが、適正な粘度のとろみ飲料を提供できるようになったことで、とろみ材の使用量削減にはつながっています。
| ■ 導入前 | およそ94kg/月(2病棟) |
|---|---|
| ■ 導入後(4か月平均) | およそ59kg/月(全病棟) |
サーバー導入前は、2病棟で月間約94kgのとろみ材を使用していましたが、導入後は全病棟で月間約59kgです。サーバー2台で全病棟と介護医療院のとろみ飲料を作成していること、利用者数が100名から150名へと増加していることから、同条件で比較はできないものの、とろみ材のコスト削減効果は得られていると言えるでしょう。
品質の標準化、業務負担の軽減など、今回のサーバー導入によって得られたメリットは非常に大きなものでした。今後も患者さんのためになり、スタッフの業務効率化・省力化につながる取り組みを検討していきたいと考えています。