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嚥下食の対応がシームレスにできる地域を目指して!
高梁地区食形態マップができるまで

「雲海に浮かぶ天空の山城」と呼ばれる備中松山城が有名な岡山県高梁市。そんな高梁市の栄養士会が、施設間での食形態の情報提供をスムーズにするため『食形態マップ』づくりに取り組み、なんと約半年というスピードで完成させたとのこと。各施設で提供している嚥下食を学会分類コードに当てはめ一覧表にするだけでなく、シームレスな対応ができる地域を目指して作成された『食形態マップ』ができるまでの活動内容や、嬉しい変化についてお話を伺いました。

岡山県栄養士会 高梁支部
医療法人清梁会 高梁中央病院

管理栄養士
秋山あきやま 晴美はるみ 先生

お話を伺った方

食形態マップで他施設への食形態の問い合わせを減らし
栄養士の交流を増やしたい!

患者さんが転院や転所をする時は、栄養情報提供書を用いて食事内容の情報提供を行います。嚥下食の場合は、どのような形態の食事が提供されていたのかを明記する必要がありますが、施設独自の食形態名が記載されていて、どのような形態の食事か分からず問い合わせることが何度もありました。そのため、栄養情報提供書を十分に活用できていた施設は少なかったと思います。

そんな課題を抱えていたところ、嚥下関連の商品や勉強会でお世話になっていたニュートリーさんから「高梁地域で食形態マップを作ってみませんか?」と提案が。課題解決につながりそう!と感じたと同時に、栄養士の交流の機会になるとも思いました。栄養士同士の交流が少なく、すぐそこの施設の栄養士さんがどんな方で、どのようなお仕事ぶりかも全く知らないほど閉鎖気味だったので「みんなでひとつのことに取り組めば地域を盛り上げられるかも!」と思い、食形態マップをつくることにしました。

行政の担当者、看護師や薬剤師など多職種が集まる地域連携会で「各施設がどのような食形態を提供しているかが一目でわかるマップを作ってみようと考えているんです。病院施設だけでなく在宅でも役に立つと思って。」と話したところ、とても共感してくださって。意図せず周りも盛り上げてくれたので、頑張って作らなければ!と思いました。

研修会を重ね、知識やイメージを共有
みんなの協力のもと、
わずか半年で完成させた食形態マップ

私を含めた栄養士3名とサポート役のニュートリーさん、代理店さんでワーキングメンバーを結成し、まずは現状を把握するため、各施設で提供している食形態や使用しているとろみ材、ゲル化材、栄養補助食品などについてアンケート調査を実施。
その後、栄養士会の1回目の研修会でアンケートの集計結果を報告しました。また、食形態マップが最終的にどのような形になるのかイメージしてもらうために、マップの書式を共有。
学会分類のコードをベースにした表に各施設の食事を当てはめていくためには、各コードがどのような形態か理解してもらう必要があります。当院で各コードのサンプルを作り、「コード0はこんな形態、2-1はこんな感じ」と実際に見てもらい、学会分類の知識を深めるための講義も実施し、知識レベルの統一を図りました。

次に、各施設に出向いて提供している嚥下食を撮影しました。コロナ禍で施設内に入れず、ときには玄関先に用意してもらい撮影することも。撮影の合間に栄養士さんとお話できたので、交流が深まりましたね。その後、ワーキングメンバーで各施設が提供している嚥下食を表に当てはめていき仮の食形態マップを作成しました。

2回目の研修会では、再度、ニュートリーさんによる学会分類についての講義で各コードや物性についての知識を深めるとともに、仮の食形態マップができるまでの経過を報告し、軽微な修正箇所はその場で一緒に直していきました。ワーキングメンバーで最終調整をし、約半年で食形態マップが完成。働きつめましたね(笑)コロナ禍だったので、休みの日を利用して施設を訪問するなど。各施設の栄養士さんはもちろん、ニュートリーさんや代理店さんの協力がなければこのスピード感で完成させることはできませんでした。もう勢いと弾みでって感じで頑張りました!

マップの名称は、高梁市独自の色を出し、みなさんに末永く愛されるものになって欲しいという願いを込めて、備中松山城の猫城主・さんじゅーろーにあやかり「高梁地区食形態マップ~にゃんコード~」と命名。
そして、食形態マップは、誰でも閲覧できるよう、高梁市の健康づくり課のホームページに掲載し、栄養相談窓口も開設しました。

どこの施設でも提供できるようにしたい
“お茶ゼリー”と“お粥ゼリー”

高梁市独自の取り組みとして、食形態マップを作るにあたり、多くの施設で必要とされる“お茶ゼリー”と“お粥ゼリー”は基本的にどこの施設でも提供できるようにしました。何といっても食べやすいので。それぞれ未対応の施設もあったので、研修会に“お茶ゼリー”と“お粥ゼリー”の試食を持参して「とろみのお茶より食べやすくて美味しいでしょ」「とろみのお粥と違ってゼリー状だから食べやすいの」と実際に食べてもらいながら良さを伝えました。やっぱり実感しないと。見て聞くだけではわからないので。とろみのお茶って以外と人気がないんです。苦味があとに残ったりして。それに比べてお茶ゼリーは美味しいです。実際に「うちでもやってみたい!」「お粥ゼリーのつくり方を教えて欲しい」という声をたくさんいただきました。

食形態マップづくりを始める前に、当院のゼリー食導入にも取り組みました。言語聴覚士から「言語聴覚士がいるのに、ゼリー食は対応できませんとは言いにくいです」と言われていたので、「これから食形態マップを作るんだから、うちもゼリー食に対応できるようにしよう!」と。だしの量やゲル化材の量など何度も試作を重ねて作り上げました。
当院では、お茶ゼリーやゼリー食はソフティアG、お粥ゼリーにはソフティアUを使用しています。とても使いやすくて、物性も安定していましたし、1回の添加量が少なく済むので、ランニングコストも評価しました。作り方などの指導やサポートもしてもらえたので助かりました。
食形態マップづくりの前に、当院のゼリー食が完成できたので、自信をもって近隣施設の栄養士さんにお茶ゼリーやお粥ゼリーをおすすめできました。
お茶ゼリーやお粥ゼリーのレシピや使用するゲル化材は、できるだけ地域で統一できると、仕上がりのばらつきがなく、指導もしやすいと感じています。近隣施設にもっと広めていきたいと思います。

確実な情報が伝わり、連携がスムーズに
定期的な見直しで進化させ、
さらに広く浸透させたい

食形態マップを作ったことで、たくさんのメリットがありました。各施設で提供している嚥下食が、統一のコードでどこに該当するか一目で分かるようになったので、栄養情報提供書を書く方も受け取る方も、確実な情報が伝わるようになり、不明点を電話で問い合わせることがなくなりました。
退院時指導にも活用していますね。「こうしたらゼリー状で食べやすいですよ」「とろみ茶が苦手なら、お茶ゼリーがおすすめです」などとお伝えしています。
また、食形態マップを作り始めてからは、栄養士会への参加者が2・3倍になりました。栄養士同士の交流が増え、気軽に食事に関する相談ができるようになりました。

多職種連携の研修会で、食形態マップ作成の経緯や完成までの経過を発表しました。学会分類のとろみの基準に合わせたとろみ付けと試飲をしてもらい、とても興味を持っていただきました。後日、介護ヘルパーの方から、同様の研修会をして欲しいという依頼がくるなど、地域連携会で発表を行ったことで、栄養士以外の職種にも認知が広がっています。

この取り組みは、岡山県栄養改善学会でも発表しました。「自分の地域でもやりたい」「大変だったことは?」など反響がありました。

食形態マップの登録施設もどんどん増加していて、19施設から23施設になる予定です。また、高梁市以外の近隣の地域からも参加したいとの声をいただいています。

今後は、2年に1回くらいの頻度で定期的に食形態マップを見直していきたいと思います。施設ごとに対応できる形態を増やして、より質の高い内容にしたいですね。例えば、刻み食に餡をかけてマップに載せられるような形態に改良できるのであればチャレンジしてみるなど。
「うちの施設で提供する嚥下食の種類はこれだけです」というスタンスでは、できることが限られてしまいますよね。転院や転所で依頼があった時には「現在はこの嚥下食を提供していませんが、対応できます!」というように、1品でもいいから、できるものを少しずつ増やしていけたらと思います。ただし、やみくもに種類を増やすのではなく、施設での必要性や状況を見極めたうえで提供できるようになった食形態を載せていきたいですね。
食形態マップはこれからも進化し続けて欲しいですし、介護や看護の分野を含め、高梁地域全体にもっと浸透させていきたいです。
物性は今ひとつ踏み入れにくい分野ですが、「ミキサーにしておけばいいだろう」「噛めなければ刻んでおけばいい」という考えでは今後の医療人として成り立ちません。摂食嚥下を知っておく必要があるなと痛感しています。ひとつの地域が食形態マップづくりを始めると、「もしかしたら私たちにもできることがあるんじゃない?私たちなりにやってみよう!」と思う地域もきっとあると思いますので、今後も広くアピールしていきます。

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