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胃瘻と経口摂取の併用で食生活を楽しむ

ライター:塩野崎 淳子

読者の皆さま、初めまして。私は仙台市を中心に在宅訪問管理栄養士として活動している、塩野崎淳子(しおのざきじゅんこ)と申します。僭越ながら、こちらのページでコラムを担当することになりました。日々の訪問の中で感じたことや、地域で行っている食支援についてご紹介していきたいと思います。

在宅医療における栄養ケアの必要性

初めて在宅医療の現場で仕事をすることになったのは、2010年の春でした。

それまでは、管理栄養士として病院などで働いていましたが、出産を機に仕事を辞めて1年以上が経っていました。育児の合間に求人情報を調べ、病院勤務時代に学んで取得した「介護支援専門員」の資格を生かして、訪問看護ステーションに併設された居宅介護支援事業所に応募し採用されました。数ある居宅介護支援事業所の中からその事業所を選んだ理由は次の2点でした。 

・医療的ケアが必要な利用者のケアプランがどのように作られているのか
・重度の障害があっても、自宅で暮らすにはどんなケアプランが必要なのか

訪問看護ステーションには、医療的ケアを必要とする多くの患者からの訪問依頼がありました。私が所属していた事業所は、東北大学病院や地域の在宅支援診療所からの信頼が厚く、末期がんや神経難病などの患者にも看護師が訪問していました。

利用者の中には、食生活が乱れることで糖尿病や腎臓病などの生活習慣病が悪化している方や、脳梗塞後遺症などで嚥下障害になっている方もいました。食生活に関する相談にも訪問看護師が応じていましたが、看護師は必ずしも栄養や調理に関する専門知識を持っているわけではないので、しばしば管理栄養士としてのアドバイスを求められることがありました。 

ある日、神経難病によって徐々に嚥下障害が進んでいた患者に、「飲み込みやすい料理のレシピ」を提供したときのことです。「久しぶりに、むせずに美味しく食べられました。ありがとう」とお礼を言われたのです。その言葉に私は、「それまでの食事では、どれほどむせて苦しんでいたのだろうか」と心が痛みました。そしてこのひとことがきっかけで、「在宅訪問管理栄養士になりたい」という気持ちが定まりました。

誤嚥のリスクがあっても「食べたい」

その後、介護支援専門員を辞め、2013年から本格的に訪問栄養指導を始めてからは、胃瘻などの経管栄養を受けている方のところに訪問することが増えました。

「少しでもいいから、美味しいものを食べたい」

「ミキサー食じゃなくて普通のものが食べたい」

患者やその家族からの切実な願いに、嚥下食について学びなおし、最新の情報を求めて学会や研修会にも積極的に参加しました。 

ある患者の家族はこんなことを話していました。

「嚥下障害になって胃瘻を作ったら、もう二度と口から食べられないと思っていました。医師からは『食べたら死ぬよ』と言われたのですから。でも、本人は食べたくて仕方がないんです。誤嚥のリスクがあるという話はもう聞き飽きました。どうすれば食べられるのか、それだけがずっと知りたかった」 

胃瘻を作ったら「二度と口から食べられない」と思っている方は多いと思います。病態によっては本当に食べられない方もいますが、よくよく聞いてみると、「アイスクリームなら食べられる」「ゼリーを少しずつなら大丈夫」という方もいるのです。そんなとき、「ゼリーが大丈夫なら、ゲル化剤をうまく使えば肉料理だって食べられますよ」と提案すると、みるみるうちに患者の顔が輝き、「食べたい!」と訴えるのです。 

ある70代の男性Aさんは、牛丼やお寿司、天ぷらなど、好物の料理を次々とリクエストし、訪問栄養指導でそれらの料理をムース状にして味わいました。胃瘻からの栄養も十分に摂っており、朝食・夕食とデイサービスの昼食では経管栄養、自宅の昼食には好きなものを食べる、という生活が始まりました。私は、体調や生活状況に合わせて、栄養状態を維持しながら食べる楽しみを保つことができるようサポート。訪問によるリハビリテーションの効果もあらわれ、ほとんど寝たきりだったAさんが、車いすに移乗しリビングで過ごす時間が長くなっていったのです。

「口から食べる」だけでなく、全体の栄養摂取量も見て

食べることが生活の中の「実現可能な小さな目標」となり、それを積み重ねることで患者やその家族の自信につながります。前述したAさんは、訪問を始めてから1年半後にはデイサービス以外の「おでかけ」を楽しむようになりました。また、調子がいい日には経口摂取を1日2食にするなど、誤嚥性肺炎に注意しながら、経口量を徐々に増やしていきました。

胃瘻と経口摂取を併用して食生活を楽しむためには、経管栄養と経口摂取の合計栄養量をしっかりと把握し、過不足なく必要な栄養が摂れるようにする必要があります。最近は学会などでの発表を聞いていると、「口から食べる」ことばかりが脚光を浴び、本来の目的である「栄養摂取」がおざなりになっているような事例も見受けられます。

「経口摂取を始めたら低栄養になった」ということの無いように注意しながら、「食べる喜び」を続けられるようサポートしていきたいですね。

著者プロフィール:塩野崎 淳子

在宅訪問管理栄養士 介護支援専門員

長期療養型病院の栄養管理、訪問看護ステーションのケアマネジャーを経て仙台市内の在宅療養支援診療所所属の管理栄養士として、地域の在宅療養者の栄養ケアに取り組んでいる。

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