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在宅でも「リハビリテーション栄養」の視点を

ライター:塩野崎 淳子

十分な栄養摂取とリハビリテーションを

2010年5月、私はケアマネジャーとして仙台市内の訪問看護ステーションに採用され、初めてケアプランを立てることになりました。ケアマネジャー初心者ということもあり、要介護度が低い方を担当することが多かったのですが、「勉強のために」と先輩の訪問に同行して、要介護度の高い、神経難病や脳梗塞後遺症などでほぼ寝たきりの状態となった方を訪問することもありました。

中には、入院中に長期間安静にしていたことがきっかけで廃用症候群(病気やケガなどの治療のため、長期間にわたって安静状態を継続することにより、身体能力の大幅な低下や精神状態に悪影響をもたらす症状)が進み、入院前はなんとか歩いていたのに、退院時には車いすでの移動を余儀なくされている患者さんもいました。そのような方が在宅に戻ってから、「復活」することもあれば、そのままどんどん弱ってしまうこともあり、「退院後の生活をどうプランニングするか」ということだけでなく、「十分な栄養摂取量を維持しながら、ひとりひとりの状態に適したリハビリテーションを行えるかどうか」が、復活できるかどうかの分かれ道ではないかと思っています。

「寝たきりにさせない」リハビリテーション

ある日、いつもお世話になっている訪問看護ステーションの作業療法士Yさんから相談がありました。脳梗塞後遺症で寝たきり状態である70代の男性Aさんが「胃ろうから栄養を摂っているが、口からも食べたい」と希望しているので、食物形態のアドバイスを依頼したいとのことでした。 

重度の半身麻痺があるAさんは、Yさんによると「容易に寝たきりになる患者」だといいます。「容易に寝たきりになる」というのはどういうことなのか尋ねると、左半身に重度の麻痺があるため、座位を取るにしても体幹を安定させるのがとても難しく、体が傾いてしまうというのです。また体格が大きいことから、妻が1人で車いすに移乗させることが困難で、1日中自室のベッドに横になっていなければならない状態でした。呼吸器の機能も低下しており、痰がからんで咳が止まらないこともありました。しかし、Yさんはご家族とともに工夫を凝らし、ベッド脇に設置したリハビリ用の突っ張りバーを活用して、麻痺のない右側の手足の筋力を強化するリハビリを開始しました。

その際、胃ろうから注入していた栄養量を確認すると、リハビリを行うには十分とは言えない栄養量でした。そこで食べる楽しみを考慮した経口摂取を進めていく中で、良質なたんぱく質が摂取できる嚥下調整食を提案することに。体重をモニタリングしながら、栄養剤の注入以外に200~300kcal程度の栄養量を確保できるよう、栄養摂取量のフォローを行っていったのです。

外出を楽しめるまでに筋力が回復

全身の筋力と体力がついてくると、長時間安定して車いすに座っていられるようになったAさん。離床してからは積極的に呼吸リハビリにも取り組みました。Yさん手作りの吹き矢に熱中することもあれば、ハーモニカを吹くのもお気に入りでした。昼下がりに訪問すると、窓から差し込む木漏れ日の中、Aさんはポケットからおもむろにハーモニカを取り出し、聞いたこともないような不思議なメロディを奏でます。優しいハーモニカの音色が響く中、私はAさんのご家族に嚥下調整食を調理指導しました。しばらく演奏すると少し休み、そして突然吹き始めます。Aさんにとっては、「リハビリ」というよりも、ただハーモニカを奏でることを楽しんでいるようにも見えました。

 しばらくすると、Aさんは外出を楽しめるまでに体力がついてきました。短い時間ですが立位を保てるようになり、ポータブルトイレでの排泄ができるようになると、家族と外出し、大好きなソフトクリームを食べて帰宅するのです。

 退院時には「寝たきり生活でも仕方がない」とあきらめていたご家族は、Aさんが亡くなるまでの間、穏やかな時間を過ごすことができました。もしご家族があきらめ、そして私たち医療介護職があきらめていたら、Aさんは立ち上がることはできなかったでしょう。「リハビリテーション栄養」の考え方を在宅生活に取り入れることで、例え重度の障害があっても復活の可能性があるということを、Aさんから教えていただきました。

著者プロフィール:塩野崎 淳子

在宅訪問管理栄養士 介護支援専門員

長期療養型病院の栄養管理、訪問看護ステーションのケアマネジャーを経て仙台市内の在宅療養支援診療所所属の管理栄養士として、地域の在宅療養者の栄養ケアに取り組んでいる。

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