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当センターにおける人材育成の試み

ライター:塩野崎 淳子

訪問当初の不安や孤独感がきっかけ

むらた日帰り外科WOCクリニックでは、見学を希望する医師・看護師・管理栄養士を積極的に受け入れています。私はそのクリニック内の訪問栄養サポートセンターに所属しており、センターではこれまでに9名の管理栄養士の見学を受け入れてきました。急性期病院のNST(Nutrition Support Team)専従管理栄養士、地域の総合病院や有床診療所所属の管理栄養士ほか、見学者の所属はさまざまです。

「在宅訪問栄養指導って何をするのだろう」
「運営基準に則った必要書類はどんなフォームなのか」
「他職種との連携はどのように行っているのか」
「訪問先の患者はどんな反応をしているのだろう」
「どんなルートで依頼があるのだろう」

そんな疑問を持って当センターの門をたたいてくれた「同志」に、最大の敬意を払って迎え、訪問栄養指導のノウハウを伝えています。私自身、5年前に初めて訪問栄養指導を始めた頃、宮城県内で在宅訪問栄養指導を行っている管理栄養士を探し出せず、「訪問の実際」を誰にも聞くことができなかったため、不安でいっぱいだったからです。

人間関係もゼロから始める訪問栄養指導

訪問栄養指導を始めるときには、一般社団法人日本在宅栄養管理学会(旧訪栄研)が発行している「在宅での栄養ケアのすすめかた」(日本医療企画)を隅々まで読み、必要な書類を少しずつ作成し、運営基準に沿って準備を進めていきました。

初めて依頼があったのは、胃ろうを造設したばかりの神経難病の患者(Aさん)でした。訪問栄養指導の契約を行って、ふとAさんを見ると、Aさんの目から涙がこぼれました。眉間にシワをよせ、言葉にならない言葉を家族に訴えていたのです。その涙の真意が分からないまま、訪問栄養指導は開始されました。

その後、Aさんが諦めていた「口から食べる喜び」を再び得られるよう、訪問介護員とともにさまざまな嚥下食を調理しました。当初は険しい表情をしていたAさんが、徐々に「美味しい」と笑顔を見せてくれるようになり、次第に心を開いていくのが分かりました。もともと美食家だったAさんの期待にお応えしようと、自宅での試作にも力が入りました。

Aさんは、最終的には口から食べ物を食べることができなくなりましたが、最後の訪問では「あなたは、ずっと私の希望に寄り添ってくれました。本当にありがとう。訪問栄養士を必要としている方のために、これからも頑張ってね」という言葉をかけてくれました。 

どんな患者でも、いきなり分かり合えるということはありません。相手のニーズを見逃さず、焦らず少しずつ信頼関係を構築していくことで、「障害を抱えながら暮らす生活者」と「伴走する食支援サポーター」という関係性へ変化していくのではないかと思います。

同行前に行うオリエンテーション

さて、訪問栄養指導を見学してもらう際には、まず患者本人と介護者に見学希望者が同行することについて許可を得ます。ありがたいことに、ほとんどの患者や家族が「どうぞ、わが家でよければ見てください」と快諾してくれます。実際の訪問の前には、患者の置かれた社会背景や要介護状態となった要因を見学者に説明します。そして、どういった経緯で訪問へと至ったか、患者と訪問栄養士の「なれそめ」を伝えることで、他職種とのつながりの大切さを知ってもらいます。 

また、ケアマネジャーの経験を生かして、患者のケアプランを見せながら介護保険における居宅療養管理指導の位置づけについても合わせて解説しています。ケアプランと栄養ケア計画の目標にかい離はないかなど、「ケアプランの見方」も理解しておく必要があります。例えば、食支援の状況によって「訪問介護員の訪問回数を増やした方がいいかもしれない」と考えた場合などは、ケアマネジャーに提案してケアプランの修正をしてもらう必要もあるのです。

運営基準や算定方法など事務的業務の確認も

ある日、見学に来ていた管理栄養士が「私のクリニックでも訪問栄養指導を始めましたが、いろいろ手探り状態で戸惑っていました」と正直に打ち明けてくれました。仲間が増えることは本当に嬉しく、それぞれの地域でどんどん拡げていってほしいと願っています。しかし、よくよく聞いてみると、介護保険で算定しなければならない人に、医療保険で請求していることが判明しました。

在宅訪問栄養指導は医療保険でも実施できますが、介護保険の認定を受けている患者は介護保険での実施が優先されるというルールがあります。医療保険と介護保険の運営基準は異なるため、「医師の指示書」を受けたと同時に(またはその前に)それぞれの事務的な段取りを進めていく必要があります。

見学終了後も、難しい事例の具体的な栄養ケアの内容から事務的な相談まで、私が分かる限りメールや電話で質問に答えています。中にはあまり調べることなく質問される方もいらっしゃいますが、その場合は「介護保険法のこの部分に運営基準が詳しく載っているので、読んでみてください」と、「調べ方」を伝えることもあります。 

栄養学的なことに関しては、例えば摂食嚥下に関することであれば「日本摂食嚥下リハビリテーション学会」、褥瘡に関することであれば「日本褥瘡学会」の学術集会に参加するなど、自ら最新知見を学びに出ることを勧めています。特に「日本在宅栄養管理学会」の研修会、学術集会では、訪問栄養指導を始める前からも、始めてからも、大変たくさんのことを学びました。「訪問の実際」を知るだけでなく、在宅栄養ケアに関するエビデンスや新たな知見を学ぶことは、これからも続けていかなければならないと感じています。

 

著者プロフィール:塩野崎 淳子

在宅訪問管理栄養士 介護支援専門員

長期療養型病院の栄養管理、訪問看護ステーションのケアマネジャーを経て仙台市内の在宅療養支援診療所所属の管理栄養士として、地域の在宅療養者の栄養ケアに取り組んでいる。

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