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介護食に大事なのは栄養? 雰囲気? 味? 質を左右する資金力と愛情の関係

ライター:宮崎 詩子

介護食に大事なものは何?

私は「あぁ、生きているんだな」という実感を得る瞬間こそが“食べる”というタイミングだと思っています。

家族も患者も絶望の中で暮らしており、この「死」に直結する状態から希望を見つけ出し、「生還」への道筋を作るのが医療です。だとすれば介護食とは、絶望の中に差す一筋の光明でなければならないと思うのです。しかし残念ながら「絶望の底に沈める存在」であることも多いのが実情です。このギャップは「食べる」ということの定義が曖昧なことが原因ではないでしょうか。

例えば、口と喉を通過すれば「お口から食べられた」と考える医療従事者はまだまだ多いことでしょう。

「お口から食べられて良かったですね」という言葉がむなしく響き、「味や香りが悪くても仕方ない」、「栄養が取れるならそれでいい」。そんな心の声が聞こえてくる瞬間です。

さらに追い打ちをかけるように、介護するご家族が大変だからという配慮から安易に栄養補助食品やとろみ剤の提案がされています。医師や看護師、ケアマネージャーの言葉には強烈なパワーがあり、“提案以外は禁忌”と解釈しているご家族はとても多いと感じています。それは、おそらく介護される人が高齢であればあるほどに。

結局、美味しく食べられなければ意味が無い

私が考える介護食の定義はこうです。「美味しい!もっと食べたい!というリアクションが無い状態を『食べる』とは言わない」。つまり、「美味しい」ということに対する探求心無くして介護食は成立しませんし、「美味しい」とは何か?

ということへの答えを持っていなければ介護食を提供できず、指導もできないのです。

例えば豆腐料理を想像してみてください。冷奴、湯豆腐、焼き豆腐、厚揚げなど色々な料理がありますが、すべて食感が違います。麻婆豆腐、あんかけ豆腐、すき焼きの豆腐にいたっては、味はもちろん盛り付けに最適な食器も違います。また温度も、冷たいものから温かいものまでさまざまです。 

見た目の美しさ、香りの豊かさ、味の広がり、食感の心地よさ、飲み込みのしやすさ。そうしたあらゆる要素が影響し合って、料理は作られているのです。さらには香り付けのために柑橘類を使ったり、バーナーで焦げ目をつけたり、粘度の違うソースを絡めたり……。料理の世界ではとろみをつけることは初歩的なノウハウであり、かつ、とても奥の深いものでもあります。

もしかしたらグルメ情報で飛び交う「口の中でとろける料理やお菓子」こそが、介護食の本流ではないでしょうか。和・洋・中華を問わず「口の中でとろける料理やお菓子」に関する歴史は長く、とろみ付けに利用される食材は料理の内容によって使い分けられるほどたくさんの種類があります。また練り上げる、煮詰める、ホイップする、裏ごしする(ペーストにする)、水切りをするといったさまざまな調理法によっても、とろける食感を作り出すことができます。 

・片栗粉、小麦粉、コーンスターチ、少し高級な葛粉など(熱を加えるとでんぷん質でとろみがつく)
・昆布やキノコ、山菜など(熱を加えたり刻んだりするととろみが出る)
・砂糖を煮詰めて作ったシロップ(粘度が高まり、とろみが出る)
・卵が温度変化によって状態が変わる性質を活かす(半熟状態の黄身にはとろみがある)
・ご飯に水を加えて煮詰める(でんぷん質によってとろみがつく)
・ムースやババロア(ゼラチンやクリームチーズ、卵の白身といった材料が口内の温度でとろける)
・パテ(魚肉などに塩を混ぜてフードプロセッサーにかけると粘り気が出て、とろみがついたようになる)
・煮こごり(魚や鶏肉などに含まれているゼラチン質が煮込むことで溶け出し、冷めるとゼリー状に固まるが、口内の温度でとろける)・圧力鍋で調理した硬い肉や野菜(柔らかく調理され、とろける食感に変わる) 

レトルト食品からは、封を切っても決まったものが出てくるだけですが、食材を一から調理すれば、風味や食感といった細かな要素を調整することができます。家族のために何十年もの間、一汁三菜を作り続けてきた大多数の専業主婦が知っているこれらの「常識」を、スラスラと言える医療従事者が果たしてどれくらいいるでしょうか?

責任感と愛情と資金力

栄養、雰囲気、味。3拍子揃った理想的な介護食を作るには「食材だけでなく技術や知識、道具、食器を揃えなければならず、高級レストランのような環境も必要だから、お金持ちの患者さんにしかできない」と感じる方もいるでしょう。それが実は違うのです。家庭の介護食は理想的でなくても良いですし、フルコースにする必要もありません。

また今はさまざまな新素材や半加工食材も売られていますから、活用するべきです。施設や病院で使われている機能食材、例えばカロリーや栄養をプラスしてくれるものや、熱に強いゲル化剤、でんぷんを分解するゲル化剤などを知ったら、きっとあなたは驚嘆し、感激することでしょう。 

昔なら食事のたびにすりおろしていた「とろろ芋」も、今は1食分ずつパックしたものが冷凍で売られていますが、高齢の元専業主婦の中にはその情報を知らない方も多いのです。そんな時、遠方に住む孫の力はとても偉大! もしも医師から「君に食材のネット注文役になって欲しい」とリクエストされたら、孫は喜んで介護食作りに参加できるのではないでしょうか?

ケチャップ、マヨネーズ、ソース、しょうゆ、みそ、めんつゆ、焼き肉のたれ、うなぎのたれ……。どの家庭にもある食材ですが、これらを絶品ソースに変える方法があります。 

1.フッ素加工された小さなフライパンか鍋を用意し、しょうゆと砂糖を入れて火にかける
2.ジュージューと美味しそうな音がして、香ばしい匂いが立ち込めたら火を止める。

 たったこれだけ。焦げる直前まで粘るとさらにコクが出ます。ほかにもひと煮立ちさせるだけで美味しくなる組み合わせはたくさんあるので、探してみてください。この「火入れソース」は、料理の最後のトッピングとして食べる直前に料理にかけるのが美味しくいただくコツです。

例えばペースト状にした少量のご飯にめんつゆを混ぜたら両面をフライパンでしっかり焼きます。そして「火入れソース」を絡めれば、酒の肴としても絶品の美味しさ。簡単に作れますから、料理に疎い人でもきっと挑戦できますよ。「火入れソース担当は重要なのです!」と看護師さんから背中を押された中年男性も、頑張ってみようと思えるのではないでしょうか。 

このように、自分がひと手間かければワクワクする介護食を作れるのだという体験をすれば、家族は「自由」と「希望」を感じるはずです。介護の「希望」は医療従事者から与えられるものではなく、自分のささやかな役割に大きな価値があることに気づけたときに得られるものだからです。まずは「その程度でいいのか…」とつぶやかせ、小さな成功体験を支援することが大事なのです。責任感・愛情・資金力のバランスの取れた理想的な介護食とは、介護者と患者が「これが最期のワンスプーンになるなら最高だ!」と笑顔になれる料理のことだと思うのです。

 

著者プロフィール:宮崎  詩子

ダイアローグ・メソッド・アソシエーション 代表理事
株式会社テレノイドケア 代表取締役

1976年東京生まれ。人形作家として活動する一方、約15年間、祖母の介護に没頭し、お洒落で楽しく幸せな介護を実現。その経験を社会資源にしようと2014年一般社団法人ダイアローグ・メソッド・アソシエーション(D–Method)を姉妹で設立。在宅ケアの患者家族代表として活動し、これから介護と向き合う方々には最初から幸せな体験をしてもらいたいと思いノウハウを色々な形で事業化。車椅子生活をお洒落にするスカート型のひざかけ(販売KISS MY LIFE)や大阪大学基礎工学部 石黒 浩 教授が開発したテレノイド™を用いた介護職向け研修サービス『テレノイドケア』の事業化を手掛ける。2017年株式会社テレノイド計画代表取締役就任。著書に『老いを育てる―在宅介護のエトセトラ』(医薬経済社)

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