ログイン
会員登録
eatlinkとは

世界一の食いしん坊、イタリア人の介護食から学ぶこと

ライター:鈴木 圭

イタリアの介護食はコース料理!どんなものが食べられている?

皆さんはイタリア人に対してどのようなイメージを持っていますか? 「おおらかで細かいことにこだわらない」「マイペースで個性的」などさまざまなイメージがあると思いますが、もう1つ、忘れてはいけない特徴があります。それはとても「食いしん坊」であるということ。

もともと食べることへの情熱は誰にも負けないほど強いイタリア人。友人や職場の同僚など親しい間柄であれば「ご飯は食べたか」「何を食べたか」があいさつ代わりになるようなお国柄です。イタリア料理が世界中に広まり愛されているのも、こうした食への情熱が関係しているのかもしれません。

そんな食いしん坊のイタリア人は、介護食といえども手を抜くことはありません。イタリアでは食事の時間がとても大切にされていて、家族みんなが同じ時間に同じテーブルに付くのはもちろん、パスタやリゾットなどのプリモ・ピアット(第1の皿)、肉や魚料理のセコンド・ピアット(第2の皿:フランス料理のメインディッシュにあたります)などコース料理さながらの食事をいただくのが一般的。当然ながら、介護食も同じお作法でいただきます。

以下に、イタリアで食べられている嚥下食の例をご紹介しましょう。

・ストランゴラプレーティ:ホウレンソウとジャガイモの入ったニョッキ、イタリア北部の山間にあるトレント地方の郷土料理(プリモ・ピアット)

・鶏肉とキノコの煮込み:むね肉とキノコをエシャロットとコンソメで煮込んだもの(セコンド・ピアット)

・ナスとジャガイモのポルペッテ:ナスとジャガイモにパルメザンチーズを加えて団子状に丸めたもの(セコンド・ピアット)

・リンゴのバニラムース:滑らかに仕立てられたリンゴのムース(デザート)

これらは当然ながら、飲み込みやすいようにアレンジされたお料理ですが、そのままレストランで提供されてもおかしくないような、かなりしっかりとしたメニューであることに驚かされます。介護食だからといって決して手を抜かない、そんなイタリア人の食べることへの情熱はこんなところでも垣間見えて微笑ましくなるほどです。

大切なのは、食べたいと思う欲求

イタリアの介護食を見ていて思うのは、食べたいと思う欲求に対して正直に、そして決して手を抜かずに向き合っているということです。先ほどご紹介したメニューを見て「美味しそう、食べてみたい」と感じた人は決して少なくないのではないでしょうか。

嚥下食は通常の料理を作ってから、さらにひと手間加える必要のあるメニューです。中にはそれほど量を食べられない人もいることを考えると、1皿だけの簡単な食事にしてしまったほうが、介護側もどれだけ楽か分かりません。しかし、それでも郷土料理を取り入れ、レストランさながらの料理を作るなど、美味しい食事を貪欲に追求することが、摂食嚥下障害を抱える人にも食べたいという気持ちを湧き起こさせるのではないでしょうか。

また、イタリア人は食事の内容だけでなく食べる環境も大切にします。忙しくても立ったままサッと食事を済ませるようなことはせず、全員がテーブルに着き、そして時間をかけてゆっくりと食事を楽しむのが一般的です。こうした食に対する姿勢は、介護食を食べさせる場合にも同じことが言えます。

例えば、バランスの取れた栄養教育を目的とするEducazione Nutrizionale Grana Padanoでは、嚥下食を食べさせる際のガイドラインを以下のように定めています。

・食事中は手を肘掛けに置くなどゆったりと座り、あごを胸に近づけるよう少し前かがみで食べる。

・静かで、食事に集中できる環境で食べる(食事中に話をしたり、テレビを見たりするのは避ける)。

・食事の合間に空嚥下や小さな咳を行い、喉の中をクリアにする。

・患者の食欲を削がないよう1皿に盛る料理は少なめに、また1口で食べられる量を少しずつ口に運ぶ。

摂食嚥下障害を抱える人は自分のペースでゆっくりと食事を摂ることが大切ですが、それに加え、ゆったりとした気持ちで食事に集中できるような環境づくりに配慮しています。こうしたガイドラインからも、イタリア人がいかに食べる楽しみを大切にし、食に対して前向きに向き合おうとしているかが感じられるのではないでしょうか。

脊髄性筋萎縮症を持つ子供と料理作りに取り組む

食べることの楽しみを感じるという意味では、自分たちの力で料理して食べるのも重要なことです。例え少しくらい失敗しても、またレストランのように洗練された1皿にならなくても、自分で作った料理は特別なものになるでしょう。

ミラノのニグアルダ・カ・グランダ病院内にあるネモ・クリニカル・センターでは、こうした食べることへの意識を高める取り組みの1つとして、「Aggiungi un posto a tavola(『テーブルに座席を追加する』の意)」というプロジェクトを行っています。

このプロジェクトでは第一線で活躍するシェフに、栄養価が高く食欲をそそるレシピの開発を依頼するなどさまざまな取り組みが行われていますが、嚥下障害を持つ患者からひときわ注目を集めたのがSMA(脊髄性筋萎縮症)の2人の子供と一緒にクリスマスの料理を作るという取り組みでした。

カトリックの国であるイタリアの人々にとって、クリスマスは1年で一番大切な日。そこで食べるご馳走が特別なものであることは言うまでもありません。日本人にとってのおせち料理のようなものと考えると分かりやすいでしょう。

この日、レシピを考えたシェフと2人の女の子が作った料理は、イタリアの子供が大好きなティラミスと、クレープ生地に詰め物をした料理であるクレスペッレ。料理を作っている最中の楽しそうな様子はもちろんですが、ティラミスのマスカルポーネクリームを味見した際の嬉しそうな笑顔はとても印象的で、食べることの楽しさを私たちに教えてくれるようでもあります。

 

食事は私たちの体を維持するために必要であることはもちろんですが、気持ちを豊かにし、生きるための活力を与えてくれる大切なものでもあります。食べたいという根源的な欲求に正直で、どこまでも貪欲なイタリア人の姿勢には、私たちも学ぶべきものが数多くあるのではないでしょうか。

 

著者プロフィール:鈴木 圭

イタリア・ミラノ在住、フリーライター。広告ディレクターや海外情報誌の編集者などを経て、2012年にイタリアに移住。イタリア関連情報や海外旅行、ライフスタイルなどの分野を中心に活動しています。

前の記事へ
次の記事へ

関連記事

注目記事

page top